久々ブックレビュー

 昔から読書は好きだったが、ジャンルは常に歴史物か推理小説と決まっていた。歴史なら司馬遼、推理ならコナン・ドイル(シャーロックホームズ)、アガサ・クリスティー(ポワロ)という風に。確か中学の時に夏の読書記録を提出する課題があり、教師の“もっと幅広いジャンルを読みなさい”というコメントと共に返ってきたのを覚えているが、それでもこの癖が治る事は無く、高校の現代文で読まされた漱石の「こころ」以外は所謂文学作品というものに接した事が無いし、未だに興味が湧かない。自分でも相当な偏食だとは思っているのだが。
  そんな中で昨年塩野七生の“ローマ人〜”にハマって一気に読み進めた訳だが、どうやら文庫版の続編は来秋まで出そうに無いので、仕方なく他作品を読む事にした。タイトルは“レパントの海戦”。

 これは1571年にオスマン・トルコ×神聖同盟ローマ教皇、スペイン、ヴェネツィア、その他カトリック諸国)の間で行われ、結論を言ってしまえばキリスト教側の大勝利に終わった海戦を描いた作品で、歴史的な意義としては西地中海海域でのトルコの後退とスペイン(無敵艦隊)の台頭、古代以来のガレー船海戦の終焉等等があるが、作中で最も惹かれたのは主人公的な役割だった勝者・ベネツィア海軍参謀長のバルバリーゴではなく、敗れたイスラム海軍で唯一生き残った将、ウルグ・アリだった。
 彼は名前こそイスラム風であるが、南イタリア出身のヨーロッパ人(本名:ジョバンニ・ガレーニ。もちろん、キリスト教徒)であり、少年時代にイスラム海賊にさらわれてムスリムに改宗させられ、その中で頭角を現してアルジェリア総督、ついにはオスマン・トルコ海軍総司令官になった人物である。イタリア出身のトルコ海軍総督というのがイメージ出来ず、google肖像画が残っていないか調べたのだが見付からなかった。なので、南イタリア出身と言う事で強引にガットゥーゾの顔をイメージさせる事にした。今でもイタリア人は黒髪が多いし、トルコ人もサッカー選手を見ていると顔立ちがアジア風と言うよりかはエムレのようにヨーロッパ的な選手も見かけるので、ターバンを巻いたり、ムスリム風の格好をすれば意外と違和感は無かったかもしれない。
 とかくこの時代はキリスト×ムスリムと単純化されがちだが、改宗したとは言え、敵側の教えを信奉していた男を海軍の最高位に就けるのが意外であると同時に、その背景、心境が何となく理解出来るような気がした。この構図、現代ヨーロッパサッカー界のビッククラブに通じているなと。
 今やチェルシーインテルといった外国人部隊のみならず、バルサやマン・Uの様な下部組織を重視するクラブですら、スタメンの過半数は外国人だ。そこでは国籍、宗教、肌の色等は関係なく、クラブの為にいかに働けるかが重視される。何より優先され得るべきは勝利であり、地元出身の選手だけ起用したところで結果が付いてこなければ、非難されてしまうのだ。そんな世界を見ていると、中世の西欧、トルコの情勢も似たようなものだったのかなと思う。信仰の力は今より余程大きかったはずだが、それでも異教徒に打ち勝つ為には何より優れた才能が必要であり、例え以前異教を信奉していようと現在改宗していればOKという実用主義的な考えが大きかったのではないかなと。とかく戦乱期は理念よりも実践が重視されるものであるし。
 全く見当違いかもしれないが、そう思ったら妙に親近感が沸いて、あっという間に読み終えてしまった。歴史好きになったきっかけは戦国、幕末の動乱期の人物模様に惹かれたからだが、この作品にも似た匂いを感じた。世界史を選択したきっかけは欧州サッカーにハマっていたのも理由の1つだし、何か新たな面白さを提供してくれたような気がした。