笑いのめす精神

 ダービー!!―フットボール28都市の熱狂/アンディ・ミッテン


 大きな書店のサッカー本コーナーに行くと選手個人の自伝とか評伝は多いけども、そういう類の本は結局の所賛美に走りがちだからどこか物足りない。もっとチームとか地域、国全体を叙述したような本を読みたいんだが、最近なかなかそういう本が出てこない、と思っていたところにこの本が。著者は確かWSDにも寄稿していたと記憶している。この人を含む複数のライターが世界各地のダービーを取材し、まとめたもの。イングランド人だからさすがにその対象はブリテン島が多いけども、オールド・ファームやエル・クラシコといったメジャーな試合だけでなくイングランド下部リーグから北アイルランド、果てはフェロー諸島まで幅広く扱っているのが面白かった。


 こうした試合を描写する時は常に“熱狂”とか“激しい憎悪”という言葉が付物だが、この本ではそれだけでなくもう一つのキーワードもよく出てきた。それは「笑いのめす」。そう書いてある以上一応日本語にもある動詞なんだろうが、日常生活ではあまり縁が無い。とても表現しにくいが「笑う」と「哂う」を足して2で割ったような、ユーモアの明るさと嘲りの暗さを併せ持つような感じだろうか?特に英国系にその傾向が強い。
 憎悪や熱狂は時に行き過ぎた行動を引き起こしてサッカーに暗い影を落とすけども、そうした現実がありながらも今に至るまでこういうライバル同士の試合が連綿と続いているのは、一方でこの「笑いのめす」精神があるからなのかもしれない。相手を嘲りながらも(その対象を除いては)どこか憎めずに思わず苦笑してしまうような。そんな精神があればもう少し観るのも面白くなるのだが。


 大分前に見つけた↓の動画はそんな精神がよく表れてる。スコットランド人が作ったんだろうけど、特に最後の歴代MVPの所などは笑ってしまった。多分イングランド人達もこれを見て目くじら立てて怒るだけでなく、同じ様な動画で「返答」しているに違いない。