前市長の弁明

 政治家の殺し方中田宏
 昨年秋に出てようやく読めた。週刊誌で女性スキャンダルが報じられ、時を同じくしてこのblogでも何度か言及(≒ネタ)したY150の不入りと任期途中での辞任によって政治生命の危機に陥った(陥っている?)前横浜市長による反論本。
 一方の言い分だけを鵜呑みにするのは危険という意味で、当事者による週刊誌報道に対する反論(結局裁判では前市長が勝訴した。)には意味があるし、その他地方自治体における公務員や議員の実体を窺い知るという意味でも面白かった。だが話題はそれ以外にもマスコミ批判や今後の政治活動にも渡り(まぁこの著作自体に浪人中の活動アピールという意味合いもあったのだろうが。)、このタイトルならそういった話は蛇足かなと。

 全体を通して印象に残っているのを2点ほど。まずは前々市長(02年の選挙で直接対決し、中田宏が当選。)に対する言及で、建設官僚出身で日産スタジアム建設やMM21開発を推進させるも代償として市の財政悪化を招いた前々市長氏に対し、“それぞれの使命”という表現で一定の評価を与えていたのは興味深かった。つまりは過去から現在、未来に至る時間軸において、前々市長はインフラ整備、自分は財政再建が使命であったと。過去を顧みず、未来も展望せず、そして現在すら直視しないような政治家が多いなと思っていた中で、こういう視点を持つ人がいるというのは興味深い。
 次に小泉、橋下両氏と自分を比較して自らを“中途半端”と述べていたのは面白かった。この二人は出過ぎた杭でもはや打たれた所で何とも無いが、自分はそこまで突き抜けた存在では無かったと。それが事実かどうかは別として、そういう現実的な視点を自ら述べる若い政治家というのは他にあまりいない(大概自分を竜馬や維新志士に準えたりする)。その意味でも地に足のついた人なのかと。

 自分は基本的にはこの人を買ってるんだけど、この本を読む限りやはり政治家としての運というか巡り合わせは無い人かなと思いが強まった。書いてある内容は確かに市のトップを経験した者が持つ説得力はあるのだが、それをこのタイミングで出す時点でどうしたって弁明色が強まるのも事実な訳で。結局自ら認めているように、能力はあるけども時流に乗れず主役になれなかった悲運の人、というのが現時点でのこの人の立ち位置か。幕末で言うところの・・・・久坂玄端とか佐久間象山とかその辺り。