読むほどに新たな気付き

The Managerー名将が明かす成功の極意ー/マイク・カーソン
 特定の監督に焦点を当てたサッカー本は数多いが、大抵は選手本同様、基本的に賛美が前面に出て客観性に欠ける。そもそもそういった類の本が出版されるのはその監督が成功を収めた(と見なされる)場合なので称賛に彩られるのは当然ではあるのだが、やはり真の監督とは(選手もそうだが)勝利だけでなく敗北時の振る舞いや対処を含めて判断されるものではないかと思う。本著はプレミアの監督達の行動から優れたマネジメントスキルを見出したもので、内容的にビジネスパーソンがメインターゲットと思われる。著者はリーダーシップを専門とするマッキンゼー出身(現在は独立)のイングランドコンサルタント

 冒頭で訳者が「サッカー監督ができるなら、ビジネスは簡単だ」と述べているが、本書を読むと監督というのはスポーツ的な側面だけでなく文字通りのマネージャー(管理者)としても重要で、そしてそれはクラブの規模が大きいほど顕著になるというのが良く分かる。確かに色々なサッカー記事やインタビューを読むと、メガクラブの監督ほど日々の練習指導は各コーチに任せて自分は選手の観察に徹したり、戦術アナリストから上がってきた報告を元に自分たちの戦術を決断したりと「部下から上がってくる情報を元に判断し、決定を下す」作業の多さが浮かび上がってくる。また対外的なコミュニケーションが重要という点も含め、読む進むほどに冒頭の言葉の意味が染みてくる。

 本書はタイトルこそ上記の通りだがチームを取り巻く様々な状況毎に章立てている中でそれぞれにおいて何か1つの答えを用意してはおらず、同じ状況でも監督の数だけ異なる解があると言う事を前提に構成されている。本書を一度読んだだけでは全体を掴み取るまでには至らないが、再読する度に、また新しい気付きが生まれてくる、そんな印象。おそらくこれからもふとした時に読み返すと、また違った想いが湧くのだろうと思う。
 それほど分量が多い本ではないが、一通り読むだけならば平日の空き時間だけでも1日半程度で読了した。