アジアカップレビュー番外編―往復書簡

 先日の返答を某氏は読んでくれたようで、しかもそれに対して思う所をより詳細に述べてくれた。私もまたそれに返礼したいが、やはりこの場にて行うのが筋と言うものだろう。なお、あまり“某”を連呼するのもどうかと思うので、以降“W氏”とさせて頂く。

 論点は2つ。まず宇佐美のプレースタイルについて。これについては2人の意見は一致しているのだが、W氏は宇佐美を代表に呼ぶにあたって更に突っ込んで

例えば宇佐美と特定の選手でユニットを組むという手も面白いんじゃないかと思うのだが(かつての西澤&森島のような)

と述べているが、確かにバルサ&レアル連合軍のスペインの様に、クラブのユニットをそのまま代表に持ち込む、あるいは国内強豪クラブのサッカーを代表に移植する、という手はある。そもそも現代表には既に遠藤、今野がいるし。ユニット(メンバー)候補としてはパトリックに似たFW、または大森、阿部の様に宇佐美の運動量をカバーしつつ一定水準の技術、得点力備えた中盤のダイナモだろうか。
 まずパトリックタイプのFWだが、ポストもこなしつつピッチを幅広く動いて足でも頭でも点を取れる日本人FWがいるのかという問題が。言わば豊田の様な体格で岡崎の様に動き回るFWってそんな選手いたら宇佐美関係無しに絶対的レギュラーだろうな(笑)中盤は単なる汗かき屋ではなく、パス回しにも最低限対応出来てゴール前にも走り込めるタイプが必要。このタイプで良いなと思える選手は細貝、青山、兵藤など大概アラサーのベテランばかりという中で、今季J2というのがネックだが山口蛍は上手くハマりそう。またそれこそ阿部、大森も今季のACL(国際舞台)での活躍次第では呼んでみるのも面白いと思う。

 2点目。これが今回の最大の論点なのだが、先月私はゴールを挙げた相手のリーグ順位を指標として上位〜下位に満遍なく点を取っている武藤、中位以下に偏りが見られる宇佐美という構図を示したが、これに対して以下の様なW氏の反論を受けた。

(ガンバもFC東京も)中盤まで優勝争いに無縁だったけれども、結果ガンバは三冠を成し遂げ、FC東京は最後まで中位だった。しかも宇佐美は怪我で開幕から8試合まったく出場せず、12試合目からスタメンで出始めたのである。そして宇佐美はリーグ戦だけで8アシストもしている(武藤は1アシスト)。これら3冠に結びついた決定力が、タイトルに絡まなかったけど上位相手に決めている決定力と比せば劣ると言い切れるのであろうか。

また、特定チームからの固め獲りについても

その神戸相手に決めた6ゴール中、2ゴールは優勝を決めた最終節の一つ前の節である第33節であり、シーズン中に初めて首位に立つことが出来た貴重な2ゴール(と1アシスト)だったことを忘れてはならない。劇的な形でJ1昇格を果たして神憑り的な勢いのあった山形に対しても天皇杯決勝で2ゴールも決めてMVP級の活躍をしたが、果たしてこれらのゴールは所詮弱小チームから積み重ねただけのゴールと言い切れるのであろうか。

同氏は上に挙げた私の指標に対して「データから見える表面だけで評価」、つまりは試合毎に重要性が異なる点が考慮されておらず、決勝やリーグ終盤で決めたゴールの価値は大きいのでは?と言う事のようだ。

 私の示したデータがあくまで数多の指標の一つであり、一つの事象に拘って全体を見落とす愚(所謂“木を見て森を見ず”という奴)は承知している。ただ揚げ足を取るようだが神戸戦で「シーズン中に初めて首位に立つことが出来た」のは同節他会場で浦和がロスタイムに同点弾を食らった結果によるものだった。試合の重要度で言うなら、試合前からシーズンのヤマ場と衆目一致していたその前の浦和戦もまた然りという事になるが、その試合ではゴール、アシスト共に記録出来ず、先制点は宇佐美に代わって入ったリンスのアシストから生まれた。また同じ決勝でもナビスコ杯の方は同点アシストを決めたものの、ゴールは成らなかった。
 ここで注意したいのは宇佐美のガンバの三冠への貢献に疑問を呈するものではないという事。相手が何処であれ天皇杯決勝のプレーはMVP級だったと思うし、リーグでも上記浦和戦ですら交代(宇佐美&パトリック⇒リンス&佐藤)によって相手DFが少し油断した結果とも言えて、間接的な貢献と言えなくもない。山形戦の2ゴールはどれも(特にシュートタイミングが)日本人離れしたゴラッソだった。ただこの選手はシーズン中そういったプレーを見せる時見せない時がはっきりしていて、ゴールを挙げられ無かった試合をよく見てみるとリーグ上位勢相手が多く、ここから私は守備の個人能力、組織共に揃った相手に対してはアシストこそあれ、守備を打ち破るゴールを決めるまでには至っていないのではないかという推論を導き出した。傍証の1つとして、7位に終わったものの昨季リーグ最少失点のマリノスに対しても宇佐美はゴール、アシストを記録していない。そして既に述べたこの選手のプレースタイルと合わせ、あのプレースタイルを代表でも、となるならそれこそ浦和戦、マリノス戦で普通に点を取れる位突出していないと厳しいかなという結論に至った訳だ。同時に昨秋から代表戦の度に宇佐美待望論が根強い中で、そう言った人々はYouTube辺りに落ちてるハイライトプレー集だけ視て言ってるんじゃないかという疑問もあって、あのような文章を著したという次第。

 以上が私の真意となるが、単一の指標はあまりに物事を単純化し過ぎた嫌いはあって、そこは記載の突っ込みが足りなかったと思う。宇佐美も今年23歳という中で実はまだA代表デビューを果たしてない。ああいう才能を代表に活かせず終わってしまうのは巨大な損失なので、今季は是非シーズン開幕からゴールを量産して欲しい。W氏ともまた日産でビール片手に観戦したいものだ。それこそガンバ戦が相応しいが(笑)、それに限らず色々な試合で。