年間表彰2016(後編)

 さてMVPの発表なのだが、今年も選考者はキリの良い40名。というか40名に合わせるために毎年この忙しい年の瀬に何度も督促する中で投票に応じてくれる友人達には感謝に堪えない。お陰で今年もサッカーに対する様々な立場からの投票を実現出来た。中には今年は殆ど試合を観ていないという人もいるが、それはそれで「ニュースで追うくらいの情報量では誰がベストに思えるか」という見方の1つなんで。今年も欧州リーグから地域リーグまで、選手だけでなく監督やマスコットまで幅広く票が入った。

【選考方法】
いつもと同じく各々ベスト5を選んで貰い1位:5pt〜5位:1ptでポイント化してその総合計で選出。仮にポイントが並んだ場合は1位票の多い方が上位、それでも並んだ場合は以下2位→3位・・・5位票の大小で決定。順位票すらも並んだ場合は両者同順位とする。なおこのルールはベスト5のみ適用し、6位以下でポイントが同じ場合は全て同順位と扱う。
【過去の受賞者】

それでは5位から発表。例年通り選考者コメントを太字で表記。
第5位
山口蛍(ハノーファーC大阪):27pt
 今季の実績としては「セレッソの昇格も彼がドイツから戻って来たからこそ」という要素もあるにはあるが、この人の場合「イラク戦の劇的ゴールがかっこよすぎた!」、「サイコーに印象的」、「とりあえずあの1点で入れてやりたくなりました(笑)」とあのゴールに尽きる。複数の人があのゴールが無ければ「今の代表監督は違う人間だったはず」、「更迭されていた」とコメントしている様に、今年一番重要なゴールだった。
海外挑戦は厳しい結果に終わったが」、「J2に出戻りでも常に代表に呼ばれているのは、戦える、計算できる選手だからなんだろう」。
 先日の天皇杯で今野の寄せの速さや鋭さは流石だと思ったのだが、今の日本であれに匹敵する中盤の守備力と技術を併せ持つのはこの選手ぐらい。来季はまたJ1で輝いて欲しい。

第4位
金崎夢生(鹿島):28pt
 「中盤の選手だと思っていたらいつの間にかマルチなストライカーに」なり、「CFで収めるだけでなく、サイドからドルブルでゴリゴリ行ける相手にとってはイヤなFW」となった金崎が4位。「石井監督がもう少し干したままにしておいてもらったら、準決勝で川崎に勝つこともなかったろうし、浦和が優勝出来ていたのに・・・」という浦和サポからの嘆きもあった(笑)
本家・Jの優秀選手にも入ってないのは「いろいろあった」から?」と思うが、CSの試合後に「石井監督の下でチームは団結し」と表情一つ変えずに言った姿には笑いよりも恐怖が勝った。控え目に言っても、他者との関係性において一般的な感覚とは違うものを持っている人なのだろう。握手を拒否したシーンもこのインタビューも、どちらも本人の中では矛盾せず、本心からの言動なのだろうと思う。

第3位
柴崎岳(鹿島):44pt
 この選手の場合、クラブW杯、更に言うと「12月18日の2ゴールだけで食い込んできた」。それまでは代表から外れる事が多くなって、鹿島でもレギュラーではあるが特に抜きん出ていた訳では無かったのだから。たった1試合でここまで得票を伸ばした例は初かな。
 こうなると「代表でもそんな姿が見たい」となるが、「消える時間帯が多いのは課題」で、「ポジション柄、途中出場で流れを変える選手ではない」というものネックになるかな。今の代表だとボランチの一角か2列目中央に置くしかないが、長谷部&山口の守備や運動量、清武、香川のゴールに繋がるパス、シュートを越えないといけない。中盤3人なら上手くハマると思うが・・・。この選手はプラチナ世代と言われた92年組だけど宇佐美や宮市、杉本(C大阪)、高木(東京V)、宮吉(広島)などこの世代はどうも突き抜けられない停滞感がある。武藤や小野裕二も負傷でやや足踏み状態だし。今回の活躍を機会にそれを打破する事を願う。

第2位
岡崎慎司レスター・シティ):61pt
プレミア優勝は同じ日本人として誇らしい。」、「主力という意味で稲本や香川のプレミア優勝よりも価値がある」、「ミラクルレスターの欠かせないピース」とまさかのレスター優勝への貢献によって岡崎が2位。「好不調の波が少なくて、計算できるFWは超貴重」ではあるものの、ゴール数ではなく守備や運動量での貢献なので地味ではあるのだが、いなくなって初めてその価値の大きさが分かる選手。「新シーズンの序盤はベンチを温めたが、逆にそのことがレスターに欠かせない存在として価値を高めた」。とは言え今季はカップ戦を入れたら昨季のゴール数を上回っているので、リーグで7〜8点、カップ戦と合わせて二桁ゴールは決めて欲しい。
 一方で代表ではワントップの位置なので特に今年後半は前で体を張るだけで終わってしまい、生かし切れていない感が。元々ポストプレーはそれほど上手い訳では無く、今はそれが出来る大迫が台頭しつつあるだけに、ザック時代のように2列目サイドかクラブと同じ2トップの一角の方がより生きると思うのだが。代表50ゴールまであと1点。

2016年日本最優秀選手
原口元気ヘルタ・ベルリン):96pt

 ということで今年のMVPは2位に30pt以上差を付けて原口に決定。
日本代表での連続ゴールを評価」、「完全に日本のエースに成長」、「代表での活躍が光った」、「代表戦での八面六臂の活躍」、「代表戦でも勝負強さを発揮」、「実は日本サッカー界を救った人間の1人」、「代表が勝ちを拾えたのはこの人のおかげ」と特に今年後半の代表戦での活躍が評価された。そのプレーは「浦和の時にはほとんどなかったディフェンス意識もすごく出て」、「献身的に走り回る様子は、10代の頃の原口の姿からでは想像すら出来ない」。選手として今やドリブラーではなくドリブルも出来る万能型MFとなって「精神面ですごく成長」し、もはや練習中にユースの後輩にキレて負傷させた面影は無い。
 「多分満場一致はこの人くらいなんじゃ」という意見もあったが、クラブでは未だリーグ戦でノーゴールながら攻守の貢献を評価されてレギュラーを保持して「安定して活躍」している。その点も代表とクラブどちらか一方だったり、ある期間限定の活躍に留まった選手が多かった中で得票を伸ばした原因だろうか。得票の内訳をみると、1位票は原口10に対して岡崎11なのだが、岡崎が2位以下の票が殆ど入らなかったのに対して(2位票1、4位票1のみ)原口は2位票7、3位票6を得ている。岡崎のプレミアリーグ制覇を評価する人は1位に押すけどそうではない人はゴールの少なさがマイナスに響いてベスト5にも入れず、原口の場合は安定して活躍しただけに少なくともベスト5内には入れる人が多かった、という事なのだろうな。去年の総評で若手、中堅の票が伸びてないという事を書いたが、今年は25歳の原口が受賞して20代半ばの選手がベスト5に4人入ったという事で、代表同様にようやく世代交代の兆しが。

6位以下は下記の通り。
赤文字の選手は女子選手、赤文字のチームは海外クラブ、青文字のチームはJ2以下の下部リーグ

6位:24pt
小笠原満男(鹿島)
7位:22pt
中村憲剛(川崎)、齋藤学横浜M
9位:21pt
大迫勇也ケルン
10位:17pt
清武弘嗣ハノーファーセビージャ
11位:14pt
カズ(横浜FC
12位:13pt
小林悠大久保嘉人(川崎)、西川周作(浦和)
15位:12pt
曽ヶ端準(鹿島)
16位:11pt
阿部勇樹(浦和)
17位:8pt
長谷部誠フランクフルト
18位:7pt
昌子源(鹿島)
19位:6pt
興梠慎三(鹿島)、久保建英FC東京U-23)、中澤佑二横浜M)、浅野拓磨(広島→シュツットガルト
23位:5pt
榎本哲也横浜M)、内田篤人シャルケ)、中村俊輔横浜M)、中島翔哉FC東京)、石井正忠(鹿島監督)
28位:4pt
井手口陽介G大阪)、都倉賢札幌)、大前元紀清水)、吉田麻也サウサンプトン
李忠成槙野智章(浦和)、佐藤寿人(広島)、本田圭佑ACミラン)
36位:3pt
遠藤航柏木陽介(浦和)、長野風花(浦和レディース)、闘莉王(無所属→名古屋)、西大伍(鹿島)、森崎浩二(広島)
長友佑都インテル・ミラノ)、小林祐希(磐田→ヘーレンフェーン)、香川真司ドルトムント)、杉田妃和INAC神戸
46位:2pt
矢島慎也(岡山)、久保裕也ヤングボーイズ)、田中隼磨松本)、富樫敬真横浜M)、遠藤保仁G大阪
永木亮太(鹿島)、町田也真人千葉)、乾貴士エイバル
54位:1pt
南野拓実レッドブル・ザルツブルク)、家長昭博(大宮)、堂安律(G大阪)、関根貴大(浦和)、伊東純也(柏)
長谷川唯(日テレ)、藤原賢土(新潟シンガポール)、菊池大介(湘南)、オニ(品川CC)、パルちゃん清水

・惜しくもベスト5入りを逃したのは小笠原。「正念場で結果を残す鹿島を支えているのはこの人!」、「鹿島の強さはこの人にあり」、「プレーと闘争心で牽引した」。また「岩手県民の誇り!!」と同郷人からのコメントもあった。「鹿島のしたたかさはもっと評価されていい」というコメントもあったが、ここで思うのが、これほど勝負強いクラブが何故ACLでは毎度ベスト8にも残れないのかという疑問。思うに鹿島はシーズンのある瞬間、ここぞという場面では力を発揮するものの、ACL制覇には安定して結果を残す事が求められ、その為の分厚い選手層やコンディションが悪い時でも最低限の結果を残す力が必要となる。JのクラブはACLとリーグを天秤にかけたらリーグを優先するところが多いように思うので、それが原因かと推測。

・小笠原に続くのはJのMVP受賞の中村憲剛と今季J1で初の2桁ゴールを記録した齋藤学。中村は「今年のフロンターレは頑張ったで賞」というチームの上位進出への評価と、「とにかく、今シーズンはキレキレ」、「「間」でお金が取れる選手」というプレーそのものへの評価があった。また「史上最年長でJリーグMVPを受賞したご祝儀」票も。今季のこの人の活躍はどこか13年の中村俊輔と重なる。プレーが例年以上に冴え渡ってゴール数も前年から増えたもののリーグタイトルには惜しくも手が届かず、優勝チームを差し置いてリーグMVPに選ばれた点において。となると天皇杯は川崎が優勝となるのだが、果たして。
 斎藤には「ドリブル・パス・シュートとそれぞれがパワーup」、「一皮むけて「分かっちゃいるけど止められない」選手になった」、「そのドリブルを止めれるDFはもうJにはいない」「何かを起こしてくれそうなワクワク感がある」というプレーへの評価が集まった。また「責任感の強さを観戦中ひしひしと感じた」とあるように、ベテランに引っ張って貰うのではなく自分が主力という自覚が出てきたように思う。この前の天皇杯で自分でPKをゲットしてそのままボールを離さず蹴る意志を示したシーンなどまさに。選考者の多くが代表への定着も期待していた。

・ベスト10残り2名は大迫と清武という今まさに代表でポジションを掴みつつある2人。清武は「セビージャで出場機会がなかなかないのは残念だけど、代表での存在感や活躍は確かなもの」で、「固定化されていた中盤の中で競争を生み出した」。セットプレーの右足キッカーとしても貴重な存在。出来れば直接FKも決まるようになれば尚良いのだが。後はクラブでいかに出場機会を得られるか。
 大迫は「夏前までは思うようなポジションで活躍できずに苦しんだが、夏明けから徐々に“半端ない”片鱗を見せ始め」、「海外で活躍する選手が少なかった今季の中で明るい話題」となった。また「代表戦のインパクトは大きかった」というコメントにもあるように、久々に復帰したオマーン戦で2ゴールと結果を出し、直後のサウジ戦でも前線でのボールキープでチームに貢献した。「そろそろ半端ないところを見せるときがやってきたはず!

・代表の主力組は本田、吉田が4pt、長友、香川が3ptと活躍に比例した形になったが、吉田はクラブで主にカップ戦要員ながらそこそこ出場機会を得ており「今やサウサンプトンに欠かせない存在であるが、三番手に甘んじず、ファーストチョイスになれるよう頑張ってほしい」と激励コメント。長友については「久々に明るい話題を振りまりてくれた貢献度を踏まえて」、「アモーレを流行らせたから」と完全にプレー以外で評価された(笑)この選手の明るい成り上がりぶりは(信長の家臣時代の)秀吉もこんな感じだったのだろうかと思わされる。
 一方で代表から1年半以上離れているが、ついに怪我から復帰したシャルケの内田に5ptが入った。「諦めないことを教えてもらった。この年になるとそういうのにグッとくる。復帰おめでとう。もう一度表舞台へ。

・今回の最年長得票者はカズ(1967/2/26生まれ)で最年少は久保建英(2001/6/4生まれ)とその差34歳。カズは毎年一定の票を集めるんだよな。投票者の世代的に全盛期を見てきたからってのが大きいのだろうけど。「現役で続けている以上、この人をランキングから外すことはできない」、「まだまだがんばれレジェンド」。久保君については「未来への我々の期待」、「期待しすぎてはいけないとわかっていながら期待せずにはいられない」というコメント。映像で見る限り体はまだ出来上がっておらず、ドリブルで1人抜いても2人目、3人目はフィジカルで潰されるシーンが結構あるのだが、ゴール前でフリーになりながらパスコースを探すような真似はせず常にゴールを狙うプレーは良い意味で日本の選手らしくない。

・こういう年間MVP賞レースはDFは選ばれにくいものだが今回のDF最高位は鹿島の昌子だった。「チャンピオンシップとクラブワールドカップでの圧巻のパフォーマンス」、「CWC滑り込み」とここ1ヵ月の活躍で得票。「鹿島伝統のセンターバック」、「アントラーズCBの王道」というコメントもあったが、秋田→大岩→岩政、そして昌子、植田とやはり「鹿島顔」、「CB顔」ってものがある。世代的に岩政(82年生まれ)と昌子(92年生まれ)は10歳も開いていて、本当はその間を山村(89年生まれ)が埋めるはずだったんだろうけど、やっぱ顔が合わなかったか。昌子は是非ポジション争いが無風の吉田、森重の間に割って入って欲しい。

・GKは西川、曽ヶ端、榎本の3名が得票
◆西川
最少失点の守備陣を評価したい」、「浦和の優勝は守備ありきということで。
浦和守備陣の中心として評価するコメントが。ただ一方で「代表GKにふさわしいレベルじゃない。」という声も。昨日も述べたがあのUAE戦のFK、PK失点と豪州戦のPK失点のシーンは悪い意味で印象深い。
◆曽ヶ端
チャンピオンシップからクラブワールドカップ決勝までの活躍だけで食い込んできた」、「もう一花咲かせてほしい
ここ数年はキャッチミスで失点するシーンが毎季必ずあったり衰えを感じていたのだが、今季はこの活躍。GKは経験が求められるとは言え、レギュラー争いに敗れたのが五輪代表の櫛引だったという点で若い世代のGKがいかに人材不足かも同時に露わになってしまったが。
◆榎本
止めることに関してはリーグ屈指」、「「GK」の本分は失点しないこと」を再確認させてくれた
飯倉と比較するとキック精度では劣るが、この選手はコメントにもあるように「止められる」選手。相手の「これは決まった」と思うようなシュートに対し、飯倉は予想通り決まるのが多いのに対し、この選手は何度かセービングする。

・同世代の有力選手も30半ばになってここ数年は去年の鈴木啓太など引退する選手が出てくるようになった。今年は森崎浩二と大分の高松大樹の2人が。この世代への主なコメントを。
◆森崎(浩)
広島黄金時代を支えた功績は計り知れない。
闘莉王
組織と闘っていたところに感情移入させられた
◆阿部
同学年の星☆」、「そろそろ千葉に戻って欲しい。
◆佐藤(寿)
年長者をrespectして

・監督として鹿島石井氏が唯一得票。「ペトロビッチでも風間八宏でもあの試合はできなかった。

・女子選手は3名得票。長野は今年のU17女子W杯のMVPに選ばれた中盤の司令塔で、長谷川と杉田はU20女子W杯の3位入賞に貢献(杉田はMVPも受賞)した選手。ふと思ったが女子選手は4〜5年前に比べてルックスのレベルが上がっているように思う。やはり競技人口が拡大すると、その辺りも比例すると言うことか。

・湘南の菊池が得票したのだが唯一の票を入れた某氏曰く「応援せずにはいられない」らしい。その理由はプレーよりも名前の影響が強い気もするが・・・笑。

・恒例の?オニへの投票が今年も。「来年はキングカズを越えるゴールを期待したいところ!

【総評】
 例年この投票を依頼するのはJの年間王者が決まった後で、その理由は天皇杯、クラブW杯が残ってはいてもこれまでシーズン全体には影響が無かったという実績があったから(と年末から投票回収や文章を書く時間を逆算してギリギリのタイミング)なのだが、今年はクラブW杯の影響が想定外だった。その結果としてベスト5に鹿島勢が2人も入ったが、この投票の素晴らしい所(自賛)はそれでも結果を見ると順当に思えてしまう所なんだな。いくら直近のインパクトと言っても鹿島勢の最高は柴崎の3位で上位2人は岡崎と原口だった。直近の結果を評価する人もいれば、独自路線を貫く人もいて、そうした人が40人集まると何故か納得出来る結果になる。2010年のFIFAバロンドールにてCL優勝と南アW杯準優勝のスナイデルではなくメッシが選ばれたり、2013年にバイエルンで3冠に貢献しながらリベリが受賞できずクリロナが選ばれたような事態が起こらない。将来この年の投票を振り返ったら、鹿島の活躍と岡崎、原口、大迫、齋藤らの活躍が良く分かる結果になったと思う。
 と言うことでお疲れ様でした。個人的にも今日で仕事納めと言うことで、色々な意味でようやく年が越せる。