高校選手権決勝 鹿児島実業×野洲

 今日の目的は一つ。それは野洲高校のサッカーを観る事。「高校サッカーの常識を越えたテクニカルなサッカー」、「ヒールパス、ノールックパスを混ぜた観ていて楽しいサッカー」等の言葉で語られる事の多いこの高校をまだ観ていなかったので、果たしてどんなものか?それを楽しみにいざ国立へ。

 試合開始後は様子を伺っていたのか、それとも連戦の疲労の影響なのか、お互い前に蹴り出す展開が続いていたが、徐々に噂通りの野洲のサッカーが現れてきた。例え相手が複数で奪いにきても平気でドリブル勝負を挑んで、しかも5割以上勝ってしまう。また、ドリブルだけでなく、パス回しでも緩急を巧く使い分けているので、あっという間に敵陣内で前を向いてボールが持てる状況を作り出す。持ち過ぎで奪われるシーンも多々あったが、DFラインからでも安易に蹴り出さずに丁寧にボールを繋ぐサッカーはこれまで観たどの高校とも異なっていた。そのサッカーに見とれるあまり、時間の経過がとても早く感じられた程だ。前半を1−0で折り返し、後半もう1点追加したら勝負は決まるだろうと感じた。

 だが、そこは鹿実も簡単に引き下がらず、特に後半残り15分からは一方的に攻め込んでいた。野洲と比較するとどうしても体力頼みに映ってしまうが、実際は一人一人のトラップ、キックの質はとても高く、両サイドはスピードもあるので何度も突破してクロスを上げていた。それでも野洲が1失点に抑えられたのは、DF陣が最後まで集中力を切らさずにいたからだ。GKと1対1になりそうな場面でも最後まで体を入れて防いでいたし。正直セットプレーになったら苦しいかなと思ったが、体を張って防いでいた。そして試合は延長へ。

 延長は前後半計20分。前半10分は鹿実の決定的なチャンスがあったが、決められず、そのまま後半へ。後半も半ばを過ぎ、PKの予感が漂い始めた時、そのシーンは訪れた。
 まず、野洲の左サイドから逆サイドに弾丸のようなサイドチェンジが届く。これだけでスタジアムはどよめいたのだが、さらに中央へボールを運び、駆け抜けてきた右サイドにパス。右サイドからゴール前に折り返すと、それまで防戦一方だったはずの野洲の選手が4人(だったはず)も走り込んでいた。その中の一人、12番瀧川が決めてついに野洲が勝ち越した。
 本当に痺れるゴールだった。サイドチェンジからゴールまで多分10秒位しか掛からなかったはずだが、今でも脳内でスロー再生出来る(笑)完璧に鹿実ディフェンスを崩してのゴール、まだ時間は残っていたが、優勝に相応しいのはどちらか、このゴールで明らかになったと思う。最後は鹿実のGKも前線に飛び出して総攻撃を仕掛けたが、そのまま試合は終わった。

 決勝なので、表彰式もあったのだが、すぐ出る事にした。その方が試合の余韻に浸れるような気がしたので。本当に素晴らしい試合だった。野洲の監督は「日本の高校年代のサッカーを変えたい」と度々語っているが、優勝という成果がそれを後押しするだろう。内容を追求するサッカーを広める為に結果が必要というのも皮肉な話だと思うけれど。
 試合中俺の後ろに座っていた夫婦(おそらく鹿児島出身者)が野洲のサッカーを観て
「高校生があんな恰好つけたプレーしなくていいの!」
なんてまくし立てていたが、身びいきを差し引いても、野洲の山本監督はそうした声とも常に戦ってきたのだろう。(その夫婦、さすがに決勝点のシーンでは沈黙していたが(笑))それだけにこの優勝はこの監督にとっても大きな勝利だったに違いない。

 
 いい試合を観た後は、その日一日楽しく感じられる。今日もそうだった。