ブックレビュー

 通勤時間を有効に使おうと思って日曜にサッカー関連の本を2冊買った。だが、1冊目を試しに読んでみると引き込まれて日曜の内に半分以上読んでしまい、翌日には読破してしまった。最初の目論見からすれば計算外だったが、就任前に読んでおいて良かったとも思う。
 「オシムの言葉」(木村元彦集英社インターナショナル)。
 著者は過去にもユーゴサッカーを描いてきたので(「悪者見参」とか)、この地域に関する見識は相当なものだ。サッカージャーナリストというより、ルポライターに近いと思うが、旧ユーゴの危険地帯にも自ら足を運んでいるだけに、その辺のテキトーに取材して文章を書き散らかすだけの連中(そういう人間に限ってNu○berとかメジャーな雑誌に掲載されるのだが)より余程面白いし、説得力がある。
 これは俺の悪い癖なのだが、いつもこうした本を読む時に、主題ではなく、周辺の話題に関心がいってしまう。作品自体はもちろん、オシムという1人の人間に焦点を当てた作品だが、ついつい、作中に登場する90年〜92年頃の旧ユーゴ代表の顔ぶれの豪華さに関心がいく。スコイコビッチ、サビチェビッチミヤトビッチミハイロビッチユーゴビッチ、ボバン、プロシネツキスーケル、ボクシッチ、パンチェフ・・・・・・。このメンバーがもし同じチームでプレーしていたら、と考えると、(この中でも何人かはメンバー入りすら出来ないかもしれない)、ユーゴ崩壊とそれに伴う悲劇がよりリアルに感じる。同時期にソ連も崩壊したから、サッカー的にも人材の分散という意味で状況は似ていたと思うが、分裂の過程で戦争が伴ってしまった事と、よりによって黄金世代がプレーヤーとして全盛期を迎える頃に分解してしまった事で、ユーゴ崩壊の方がより強烈なインパクトだ。
 だからこそ、民族の垣根を越えて選手から信望を集めたこの大監督の存在がより大きく見えてくるのかもしれない。考えてみたら過去の代表監督で就任前にここまで国際的に実績のある人(≒名声のある人)はいなかった(注:監督として)。トルシエもアフリカでは有名だったらしいけど、最初は“ふーん、で、誰?”って感じだったし。(こちらが勝手に)期待しているので、結果が伴わない時は(これまた勝手な)失望も大きいかもしれないが、この名将からすれば、周囲の過熱する一方の期待すら、ユーゴで味わった重圧、絶望に比べれば笑い飛ばせるものなのだろう。今はトリニダード・トバゴ戦でどんなメンバーを選ぶのか楽しみで仕方ない。チケ取りももうすぐ始まるしな。