J1第25節 川崎×FC東京(等々力)


 試合前、まずGKがアップに登場した時に塩田が胸のエンブレムを叩いたり、両手でサポーターを煽ったりしていたのが、そんな選手だとは思ってなかったので意外だった。今にして思えば今日の伏線だったのだが。

 試合が始まるといきなりホームの川崎がフルパワーで攻め込む展開。布陣は昨日の予想通りだったけど、素早いパスワーク、ドリブルを組み合わせた流れるような、そして両サイドバックの村上、山岸(そもそもこの2人がサイドバックの時点でかなり攻撃的だが。)もどんどん前に上がっていく攻めはまさしく“スペクタクル”と呼ぶに相応しく、いつゴールを奪ってもおかしくなかった。だが、得てしてこういう時にカウンター等で失点する場合が多い様に、先制したのはFC東京で、コーナーでフリーになった赤嶺が決めた。それでも先制後も攻める川崎、凌ぎつつカウンターを狙う東京という構図に変化無し。ここまで開始わずか10分。あまりの展開の濃さ、早さに観ているこっちが流れに置いて行かれそうな錯覚すら覚えた。
 そうして密度の濃い時間が過ぎていく中で、前半の終わり頃、今野が1発退場というハプニング発生。俺は観ていなかったのだが、一緒に行った友達によると肘が入ったらしい。1人少なくなった為、FC東京は益々守備を固める傾向が強まり、スペースが無くなった川崎がそれまでより攻めあぐねる時間も増えていった。

 おそらくこの辺りから試合は段々と塩田のものになって行った。1人多い川崎はボール支配率こそ圧倒したけど、前述のようにスペースが無いからシュート数は前半より少なくなったが、何度かチャンスは訪れた。塩田はその数少ない川崎のチャンスもセービングしたのだが、それよりも彼を際立たせていたのは、その存在感、オーラだったように思う。味方を鼓舞し続け、飛び出したがら空きのゴールを狙われる危ないシーンがあっても枠を外れる強運もあり、そして最後まで無失点で凌ぎ切った。まるで04年ナビスコ決勝の土肥を見ているようだった。あの時も味方が前半で退場し、最後まで守り切って勝利を手にしたという点で符合するが、今日本当の意味で土肥の幻影を振り払って、正GKとしての地位を確立したんじゃないかと思う。間違い無く今日のMan of the match。

 1−0でこんなに興奮した試合は初めて。予想は外れたけどそんな事はどうでもいい。最初は名前先行の感が強かったこのカードではあるが、去年は川崎の爆勝、そして今年はFC東京の連勝、しかも今日は両チームの絶対に失点しない/追い付いてみせるっていう強烈な意思が伝わってきて観る者の心を揺さぶった。ダービーとかクラシコっていうのはこういう試合の積み重ねで名実ともに“特別な試合”になっていくのだろう。