アラブが見た十字軍/アミン・マアルーフ
タイトル通りの内容。正確にはアラブ視点というよりも事実をありのままに書いているから―――それは例えば野蛮なフランク(当時のムスリムが西欧人全般を指した言葉)の蛮行だけでなく、イスラム世界の不統一も同時に叙述するという―――文体はとても簡潔で2日程で読んでしまった。
その簡潔さは、文体の根底に流れる、進んだ文化を持っていたイスラム世界とそれに比べて大変遅れたフランクの世界という前提、にも拘らずイスラム世界は内部抗争で団結できず、時には中東に居座ったフランクとも結んだ事への自戒、嘆き、そしてフランクを中近東から追い払った後は西欧に文化的に追い抜かれ、今に至るという現実――そういった要素が合わさった結果と言えなくも無い。
これを読むと、11世紀末の中近東に襲来したフランク達は、この1000年前にローマ帝国領内に侵入した祖先達と大して進歩がないではないかと思うのだが、更に言うならばその1000年後の世界に住む彼らの子孫も果たして文明化は進んだのかというと一概にそうとは言い切れない所に、永い歴史性を感じてしまう。確かに著者の言う通り、十字軍運動以降西欧はイスラム世界を凌駕し、今に至っているが、かつて猛威を振るったその蛮性は今でも消滅した訳ではない。今でもそれは例えば欧州のスタジアムで、あるいはアウェー試合開催都市の街中で散見される。今季から始まったUEFAヨーロッパリーグ予選、アストン・ビラ×ラピド・ウィーンでの貴重なアウェイゴールを決めてトータルで逆転した直後のウィーンサポーターを視ると、ローマ人、あるいはアラブ人、トルコ人達が怖れたゲルマン民族の脅威というものが何となく分かるような気もするのだが。