完結編

ファウスト第2章/ゲーテ

 1章を読んでから実に1年が経過していた。とは言え悪魔に魂を売る契約を交わして思うままに現世の快楽を享受するファウスト博士と、その魂を手に入れる為に時には骨を折りながら、時には言葉巧みに立ち回りながら博士と絶妙な距離感を取りつつ手助けするメフィストフェレス、という構図は不変。
 なのだが、前章との物語の連続性が薄く、別の話を読んでいるかと錯覚した。基本的に2章は皇帝(ドイツ皇帝?)の下で手柄を立てる話、古代ギリシアの美女ヘレネトロイア戦争の原因になったスパルタの王女)の為にはるばるギリシア(の幽界)まで会いに行き、その中で古代ギリシアの様々な神、英雄、怪物に出会う話の2つで構成されているが、前編のもう一人の主役だったグレートヒェン(ファウストとの愛の為に死に至った女性)は殆ど出てこない。この作品を読む前はファウストとグレートヒェンの悲劇の物語なのかと思ってたんだが(苦笑)確かに格調高い文章や登場人物の多さは著者の学識の高さを感じさせはしたが。

 物語の終末はギリシアから戻り、皇帝の下で(勿論メフィストフェレスの力を借りて)手柄を立てたファウストが海沿いの土地を与えられ、そして理想の国造りに勤しむ日々から始まる。既に100歳を迎えたファウストは古くからその地に住まう老夫婦を今で言う区画整理の為に移らせようとするも、頑として聞き入れられず、已む得ずメフィストフェレスの手下達を使って強行手段に出た末にその夫婦を死に至らしめてしまう。それが合図となったのか、突如ファウストもついに生の終わりを迎える事になった。
 ついに念願の契約成就の瞬間を迎え、歓喜して魂を我が物にせんとするメフィストフェレスだが、天上から天使が舞い降りてその魂を悪魔の手から奪い、そして昇天させる。そして天上界ではあのグレートヒェンの姿があった。2人は天上で再び出会い、こうしてファウストの魂は見事天に召されたのでした。めでたしめでたし

 ―――と言いたい所だが、やっぱ話の展開が急過ぎるんだよなぁ。最後の展開はまぁ予定調和としては当然とは思うが、この物語はストーリーそのものよりも前述の様に、ゲーテの教養の発露として捉えた方が良いのかもしれない。そして陰の主役としてのメフィストフェレスの存在感は前編よりさらに際立っていて、深い教養からそうした現代にも通じる魅力的なヒールを生み出した創造性という面でも。