これは1972年に刊行された作品を昨年秋に文庫化したもの。年明けに本屋でたまたま見付けて買ったまま積読していたのだが、2月にローマ法王まさかの退位という事でこの本を思い出し、読み始めた。内容はルネサンス期の法王4名の生き様を描いたものだが、宗教的な側面だけでなく法王領の主としての世俗的な面も描かれ(むしろこちらの方が強調されていると言えるか。)聖俗の二刀流で西欧内、あるいは対イスラムの政治情勢の中を立ち回る姿が印象深い。あまりに俗界に入れ込み過ぎたから宗教改革なんてのが起こってしまったのだとも思うが、特にアレッサンドロ6世のように、政治の手段として宗教を利用するかのような人間が法王になるなど、ルネサンス期だからこそなのだろうと思う。
72年刊行と、これは著者がまだ30代前半の頃に著したものなのだが、冒頭で現在の著者が当時を振り返って『肩に力が入っている』と苦笑していた様に、文体はその後の作品に比べて良く言えば熱く、一方で透徹と言い難い。ただ、その後の作品があるのも、この初期の作品があればこそ。
著者は冒頭で山に喩えているが、ある山を上らなければ見えない山があると述べている。著者にとって最初の山は慣れ親しんでいたイタリア、ルネサンスであったが、本作やその他の作品で“登頂”して初めて(ルネサンスの源流である)古代ローマという山を望む事が出来たと。そして古代ローマを15年かけて上り終えた次は、古代とルネサンスを繋ぐ中世という山があり、それは「ローマ亡き後の地中海世界」、「十字軍」、そして現在準備中という作品の3部作で登頂するつもりらしい。
何事もまず眼前の山を上らなければ始まらない―――本作の内容より、この冒頭文の方が脳裏に刻みつけられた。
準備中の作品のテーマは何だろうか。それも楽しみ。