移民とEURO

 そろそろEUROも開幕すると言う事で前回は全試合予想などもしたが(笑)、今回は少し視点を変える。

つい15年ほど前まで、欧州で移民や旧植民地出身者をチームに取り込んでいる国はフランスやオランダくらいだったが、この10年でそれ以外の国も育成改革の一環でこうした選手を若いうちから発掘し、それがA代表に還元されている。特にドイツ、ベルギー、スイスはその成功例。という事でそういった選手の多そうな国をピックアップして人数、出身国・地域を調べてみた。今回調べたのはフランス、ドイツ、ベルギー、スイスの4ヶ国。イングランドも黒人選手が多いが、移民して何世代も経っているからかWikipediaのプロフィールを見てもルーツとなる国が記載されていない選手が多かった。スターリング、スタリッジなどはジャマイカからの移民のようだが。

■フランス:13人
ポグバ、コマン(ギニア)、エヴラ、サーニャセネガル)、カンテ、シッソコ(マリ)
マンガラ、マンダンダコンゴ民主共和国)、マテュイディアンゴラ)、ラミ(モロッコ
ユムティティ(カメルーン)、パイェ(レユニオン)、マルシアル(グアドループ
グアドループ、レユニオンはカリブ海にあるフランスの海外県

アフリカに植民地を抱えていただけあってそこの出身者が非常に多い。またカリブ海にある海外県出身者もいる。年齢やポジションを見ていると、運動量が要求されるインサイドハーフやスピードとテクニックが重視されるサイドアタッカーに黒人選手が多く、しかも若い世代ほどその傾向が強まる。やはり体格が出来上がるのが早い黒人選手が育成年代でも台頭が早く、その結果として若いうちからクラブで抜擢され、代表にも反映されるのだろう。前にも書いたがグリーズマンは白人選手で数少ないサイドアタッカー(今はセカンドトップ気味のポジションだが)だが、フランス国内でユースに上がれずスペイン(R・ソシエダ)の育成部門で育てられた。この事例が上記の推測を裏付けているようにも。

■ドイツ:9人
ムスタフィ(アルバニア)、ケディラチュニジア)、エジル、ジャン(トルコ)、ポドルスキポーランド
ター(コートジボアール)、ボアテンク(ガーナ)、サネ(セネガル)、ゴメス(スペイン)

ドイツはトルコ、東欧、旧ユーゴ出身者が多く、これは歴史的、地理的な側面が大きいとは思うが、アフリカにルーツを持つ選手も数人いる。ドイツは植民地を第1次大戦で失っているので何故かと思ったが、ターやボアテンクは父がアフリカ出身、母がドイツ人、かつベルリン、ハンブルクといった大都市の生まれなので、旧宗主国に限らず欧州の大都市に働きに出ているアフリカ出身者というのはかなり多いんだろうな。ちなみにサネは父親がドイツでもプレーした元セネガル代表のサッカー選手なので、事情は少し異なる。更に言うと母親はドイツの新体操五輪メダリストと言う事で身体能力はかなりのものだと思う。

■スイス:14人
ジャカ、ベーラミジェマイリ、タラシャイ、メーメディ、シャキリアルバニア
ムバンジェ、エンボロ(カメルーン)、セフェロビッチ(ボスニア)、R・ロドリゲス(スペイン)
ザカリア(コンゴ民主共和国)、G・フェルナンデス(カーボウェルデ)、ディルディヨク(トルコ)
ジュルー(コートジボアール

今回調べた中で最多の14名。目を引くのはアルバニア系の多さだが、彼らの殆どはアルバニア本国ではなくアルバニア人が大半を占めるコソボの出身。ドイツもそうだが、内戦を逃れてユーゴを出た人々は地理的に中欧を目指したのが伺える。勿論受け入れ側が積極的に移民を迎え入れたという側面もあるだろうが。WSDの最新号に少し書かれていたが、コソボがFIFAに続いてUEFAにも加盟したので、今後は祖国の代表を目指す選手が現われるかもしれない。現にクロアチア代表のラキティッチは元々スイス生まれでユース代表はスイスを選択していたが、A代表は祖国を選んだ。コソボがそこそこの強さを持つorトルコの様に協会が移民の子弟を積極的にリクルーティングするならそういう選択をする選手が出るかもしれない。

■ベルギー:12人
R・ルカク、J・ルカク、デナイエル、カバセレ、ベンテケ、バチュアイ(コンゴ民主共和国
ナインゴラン(インドネシア)、ヴィツェルマルティニーク)、フェライニ(モロッコ
カラスコポルトガル)、デンペレ(マリ)、オリジ(ケニア

やはり旧植民地であるコンゴ民主共和国(旧ザイール)にルーツがある選手が多い。今回は怪我で欠場するが主将のコンパニも同様。ベルギー自体EUの中心地でフランス、ドイツに挟まれた場所なので、想像以上に国際的な土地柄なのだろう。ただベルギーは元々北部のフラマン語オランダ語の一方言)圏、南部のワロン(フランス語)圏に分かれているので、チーム内の“共通語”は何なのかという素朴な疑問が(笑)以前川島のブログにチームの食事時にオランダ語とフランス語でグループに分かれて座っていた写真が載っていた。インタビュー動画などを見るとフランス語を話す選手が多いように思ったが。


 今大会に出場する国では他にオーストリアスウェーデンもトルコや東欧、アフリカにルーツを持つ選手が何人かいて、もはやそういった選手をいかに上手く取り込むかが強さの鍵になっているように思う。国の垣根が低くなっている一方で、こうした国(協会)の垣根と言うのは明確にあって、前述のコソボのUEFA加盟やカタルーニャスコットランドの独立など(スコットランドはサッカーでは既に独立しているが)、より小さな地域単位への分裂傾向もある。そういうせめぎ合いの中で、例えばドイツ代表のエジルがトルコ代表と対戦するとか、同じアフリカの国をルーツに持つ者が欧州の2つの国に分かれて対戦するとかの事態が起こり得るので、サッカーを見ているとそういった国際情勢の一端が垣間見えるものだなと改めて思った次第。

 最後に予想を(笑)
優勝:ドイツ
フランスはいつも自国開催で優勝するので迷ったが、W杯に続いて連覇すると期待を込めて。