初古典

 予想通りとても年度末とは思えない平穏さで過ぎ去った1週間。久しぶりに読書感想文でも。


ローマ亡き後の地中海世界を借りようとしたら未だに待ち順位300位とか気が遠くなるような数字なので場繋ぎに所謂古典と呼ばれる作品を初めて読む事にした。
ガリア戦記』(ガイウス・ユリウス・カエサル
ゲルマニア/アグリコラ』(プブリウス・コルネリウス・タキトゥス


 ガリア戦記カエサルによるガリア(現フランス、ベルギー等)征服の記録、ゲルマニア/アグリコラは当時の蛮族ゲルマン人と岳父アグリコラによるブリタニア征服を始めとする業績の紹介(≒アグリコラを冷遇したドミティアヌス帝に対する弾劾)。この手の本は30〜40年前に発刊された古い文体、装丁というイメージだが、90年代に同じ訳者から文庫本として復刊されていたもの。どちらも原本は現存せず、何種もの写本を統合させたものなので文中にやたら[注]が多く、巻末の解説と行ったり来たりしながら読むのは多少面倒だったが、内容自体は簡潔ですぐ読破出来た。
 思いを伝えるのに二語も三語も余計に書き連ねるのは書き手、読み手双方にとって良い文章とは言えず、わずか一語、一文で真意が伝わった(伝えられた)時というのはまるでシンプルなダイレクトパスで崩した後のゴールの様な美しさ、爽快さがある。特にガリア戦記はラテン散文の傑作という評価らしいが、物を書く時―――社内文書であれ、メールであれ、果てはblogであれ―――いかに簡潔に真意(あるいは意図する所)を伝えるかに毎度苦労させられている者にとっては、かくありたいと思わせるような文章。


 本来なら“感想”とはその内容についてであって、勿論2つに共通する当時の蛮族ゲルマン人に対する言及などは、これが5世紀に西ローマを滅ぼして西欧の主となり、その後の幾多の交流を経て今の西欧人になっていったかと思うと感慨深くもあるのだが、読破直後に湧き起こった思いというのは、それとは別のもっと大きな背景について。
 普通書物には無味乾燥な記録を除いてその背後に著者の世界が広がっており、読み進めるにつれてその様々な感情に触れる事が出来る。だが今回読んだのは2千年前の世界なのだ。そこには紀元前後の未だ森林と沼沢地で埋め尽くされた西欧世界が広がり、カエサルの、タキトゥスの思いがあった(特にカエサルは客観的な文体を取りながらその思いを読者に伝えるという高度な技術を以て。)つまりは2千年の時間すら越える書物そのものに対して思いが飛んでしまったという訳。また機会があれば気長にローマ亡き後〜の予約とローマ人文庫版最新刊を待ちつつ別の作品を。


 それにしてもこれらを読むと不仲と言われるドイツとフランスの関係はナポレオンとか普仏戦争とか“最近”始まった話でなく、ガリアとゲルマンからの伝統なのかという思いにさせられる。