週の中日に国際情勢を語る

 その経歴や風貌から何とはなしに切れ者のイメージがあったが、今朝このニュースを知ってさらにその思いを強くした。



 大統領職は現任期を以って辞任。それに伴い(日本でも小泉が安部を指名したように)後継者を指名。そして自らは新大統領の下で首相に就任。これらは全て合法的なプロセスに基いて行われているが、結果として現れるのはこの男が今後も実質的な最高権力者である事には変わりないという事実。国家元首の地位は手放すが、唯一上位にある大統領は自分の子飼いで、議会も与党が圧倒的優位で、障害となる心配は無い。まさに皇帝、いやロシアだからツァーリか。尤も、その意味合いはロマノフ朝のような絶対君主としての皇帝と言うよりも、古代ローマにおけるそれに近いが。


 ローマ皇帝――特に帝政開始〜五賢帝時代辺りまで――というのは一般的な専制君主のイメージとは少し様相が異なる。訳語として「皇帝」という言葉が当てられてはいるが、ローマ皇帝というのは名目上ローマの「第一人者」に過ぎず、その力の源は(共和政時代から続く執政官、護民官といった)様々な合法的官職・称号が持つ権利、権力の集合体である。そしてそれらは元老院の承認や市民権所有者による選挙と言った『共和政に則った』プロセスを経てようやく得る事が出来る。しかし、これら合法的手続きを踏んだ結果として現れるのは、国を動かすあらゆる権力が唯一人の掌中にある状態であり、まさにそれは「皇帝」としか表現し得ない。いわば共和政を装った帝政。
 これと同じで今のロシアも極論すれば民主主義を装った帝政に近い。ローマでこの仕組みを作ったのはアウグストゥスで、強引に改革を進めたカエサルが暗殺されたのを教訓にそうしたらしいが、今回のロシアのこの人にも、それに通じる頭の良さというか狡猾さがあるな。スポーツの世界でも、2014年冬季五輪が下馬評がそれ程高くなかったロシアのソチに決まったり、今季のCL決勝会場が他の有名なスタジアムを抑えてモスクワのルズニキになったりした裏にはこの人の影響力がかなり大きかったらしいので、それだけの器があるという事なんだろう。


 結局これまで帝政か共産党独裁しか経験してない国だから、ソ連が崩壊して民主主義国家になったと言ってもこうなるのは、歴史の必然なのかもしれないが。