La Divina Commedia/Inferno

神曲・地獄篇/ダンテ・アリギエリ
【あらすじ】
西暦1300年の聖木曜日の夜、深い森に迷い込んだダンテは尊敬する古代のローマの詩人ヴェルギリウスに導かれて地獄を巡る旅に出発し、各界で生前の罪の報いを受ける神話の英雄、歴史上の有名人、(ダンテの)同時代人、あるいは地獄に棲まう様々な怪物、悪魔に遭遇する。


 ルネサンスの先駆けとは言え基本的にキリスト教の世界観の中での話なんで、そういう世界の外側に居る者からしたら(古代の多神教世界の人である)ヴェルギリウスに(一神教の)神を讃えさしたり、キリスト以前の人というだけで天国でも地獄でもない辺獄に置かれる、というのはどうも違和感を拭えなかったが、そういう側面を一切排除して作品を見れば、口語訳だからというのもあるが、とても700年前の作品とは思えなかった。それはおそらく
・各界を巡りながら最終目的地を目指す構図
・神話や実在の人物を登場させる事による演出効果 
に慣れ親しんでいる事に因る。というかゲームでもアニメでも、そうしたものの元ネタが殆どここに集約されてると言ったほうが良いかもしれない。


 読後も印象深いのは、冒頭に登場する地獄の門に刻まれた
Lasciate ogne speranza, voi ch'intrate' われを過ぎんとするものは一切の望みを捨てよ
という有名な一句。文字通りに受け取れば絶望しかないにも関わらず、不思議とそういった印象は受けなかった。人間「絶対〜してはならない。」などと言われたらしてみたくなるように、そういう“極”に対しては無意識に疑って掛かってしまうのかもしれない。そんな感じが↓に絶妙に出てる。


(門に刻まれた言葉は厳しいですね、と語りかけるダンテに対し、)
「ここでは疑心はすべて捨てるが良く、怯懦もすべて絶つが良いのだ。私たちが来た場所は前にも言った通り、明知を失った悲惨な連中をおまえが見るべきところなのだ。」
そして明るい顔つきで先生は自分の手を私の手に重ねた。


 前作が前作だけにこういう物語は気楽に楽しめていいわ。とある方面ではカントに手を出そうとしている人がいるとの事だが、wikiのカントのページを見ただけで自省録の3倍、プロ倫の2倍位のエネルギーが必要なのを悟ったので、スルーしたい。