Philippicae

 横浜FCフリューゲルスの後継チームであると世間的には思われていながらも実態はそうでないのは、9年前から現在までのこのチームの歩みに少しでも関心があった者なら誰だって分かってる。だが、その事実ですらもこの試合に至るまでのマリサポ系blogを読んだ後の不快感を拭い去るには十分ではない。そこにあるのは、同じ街を本拠とするもう1つのクラブに勝つ、というダービー特有のライバル心ではなく、相手の存在そのものを否定する暗く陰湿な感情に他ならない。別に相手が9年前に消滅したチームの後継を自称していようがいまいがそんな事は第一義に優先されるべき事ではない。突き詰めれば同じ街に2つのクラブが存在する、という事実だけで“ダービー”というある種の感情を巻き起こし、その街のfootballismを突き動かす原動力と成り得るのではないか?


 いつから鞠サポはこんな風になったんだろうね。相手が憎いなら、勝ちたいならピッチ上で、さらにはスタンドの熱気でも上回ればいいじゃん。明日の試合は横浜FCホームではあるが、サポの比率はまーマリノスが下回る事は無いだろう。だが、仮に明日勝点を落とすならばそれは偶然の事故であって普通に戦えば勝てるという確信は、皮肉にも一連の言動で余計な軽蔑や嘲笑が加えられる事により、薄められた。吠えれば吠える程に、大都市のビッククラブ(と自分達で思っている)の姿ではなく、2部から上がったばかりのクラブに対しての余裕の無さ、そして巨大都市のローカルクラブという真の姿が浮かび上がってしまうのだ。


 横浜“F”マリノスというクラブを一言で定義出来るとすれば、“理想と現実の狭間を逡巡するクラブ”という称号が最も似つかわしい。人口360万を抱える大都市にあり、本拠地はW杯決勝会場にもなった巨大スタジアム、そして成績もプロ化以前から日本サッカー界を牽引し、J開幕以降も過去3度の年間王者に輝く―――この事実だけ切り取ればまさにスペインのバルサ、レアル、そしてイタリアのユーべ、ミランの如き輝かしいビッククラブが連想される事だろう。だが、本拠地はその巨大さ故に滅多に埋まる事は無く、成績も過去2年は中位に甘んじている、という現実がその甘い夢を覚まさせる。そしてその厳しい現実の原因を常に外部に求めてきたのもこのクラブのサポの実情でもある。“自分達はこれ程までにこのクラブを愛している(≒素晴らしい)のに無能なフロントや暴力的な他クラブ(サポ)のせいでそれが報われない”―――さっかりんetcで鞠サポ系blogを見る度にそんな共通意識が感じられる。だがそれは、(一部では突っ込まれている事だが)浦和やG大阪にピッチ内外で圧倒されている事実から目を逸らし、弱い相手を見つけて悦に浸っているだけだ。


 このチームが生まれ変わるには、決定的な敗北が必要なのかもしれない。ホームで浦和に完敗しても例の弾幕降下事件で巧く話が摩り替えられていたり、天皇杯でガンバにサッカーの質において完全な差を見せ付けられても、世代交代、過渡期という言い訳が成り立っていたりするので、最早そんなexcuseの無い完全なる敗北でもないと、この腐り切った状況を変えられない。ともかくも、ダービーでは少なくとも相手の存在は認めてそこから激しく戦って欲しい。要するに実家のすぐ側にフリューゲルスの練習場があっても井原、松永が好きであのチームを応援していた者として、高校時代に行った三ツ沢のあの激しくも明るい雰囲気よ再びって事なんだが。そういや大学に入ってあの雰囲気を知る人間と知り合えたのは何かの巡り合わせなのかもしれないな。


各国のダービー一場面。ミラノセビリア