マリノスについて

 J1も中断期間と言う事でマリノスについて少し考察をば。
 結論から先に言うが、おそらく今季はピッチ内外における過渡期に当たるのだと思う。更に言えばその過渡期の初期段階に相当するのでは、と。

 マリノスのサッカーというのはある意味現代サッカーの潮流に対する逆説的な存在と思っている。今はDFでもボールを繋ぐ能力が求められ、トップ下(2列目)の選手もゴール前に走り込んで年間二桁決める位の決定力を求められるが(メッシ、C・ロナウドはその究極進化系)、マリノスにおいては中澤はあまり足元の繋ぎが上手いとは言えず、中村も本職はトップ下と言いつつ、実はこの選手にとってのトップ下とは「(ボランチの様に)守備や動きの制約を受けないフリーポジション」を意味しており、ゴールエリア内に前に走り込むプレーは得意としていない。
 一方でこういった中澤、中村のプレースタイルは流行以前のサッカーの大原則である「相手より失点しなければ負けない。相手より点を取れば勝てる。」を体現したものでもある。中澤は守備者の本分である強さ、高さで相手の攻撃を撥ね返すプレー、中村は左足一本でチャンスメイクしてゴールを演出するプレー。これでマリノスは勝ってきたし、流行とは違う形でサッカーの原則を踏襲する―――それ故に流行を追う者への皮肉であり、逆説的な存在だなと。
 
 問題はこの両名が既に37歳で、後継者など簡単に見付からず、頼り切ったままではいずれ破綻を招くのが目に見えているという点にある。強いて言えば中澤は栗原、ファビオ、中村は藤本がプレースタイルが近いかなという程度だが、同じプレーを求めるならミニコピーの域を出ず、栗原、藤本も実は既に30歳を越えている。それならばより組織的で現在の潮流に沿ったサッカーを志向すべきではないか―――樋口氏が退任して欧州から監督を招聘した理由というか意義の1つはこれだと思っている。ちなみにもう1つの理由は若い選手の育成だろうな。

 冒頭の話に戻るが、今が過渡期の初期段階としたのは、中澤、中村が衰えつつもまだ健在という段階にあるため。監督もかなり悩ましいのではないかと思う。自分の志向するサッカーを極めるなら中盤は機動力のある選手を置きたいし、最終ラインも繋げるDFを置きたい。が、そもそもそんな選手は今のチームに殆どおらず、勝つためには守備、攻撃において未だチームトップクラスの力を持つ中澤、中村を起用する必要があるが、中澤はともかく中村の置き所如何では志向するサッカーそのものが変わってしまう、と。ここ数試合ボランチに置いたり、もう1列前で置いたり起用法が定まらないのはこういう事情があるのではと思う。

 清水戦の観戦記で「詰んでいる」と書いたのはこの点で、ここ数年の新卒選手がユースからの昇格や大学経由のユース出身者ばかりというお手軽路線や(鹿島の様に)若い選手を鍛える環境の整備を怠ったツケで、監督の志向するサッカーを体現しようにも、それに見合う選手、ベテランに取って代わり得る若手、中堅選手が殆どいないんだな。現時点で戦力と見做しうる25歳以下の選手は1年レンタルのアデミウソンを除けば喜田、齋藤ぐらい。これでまだ強化部がまともでしっかりスカウティングした選手を獲得できていれば、あるいは端戸、熊谷がもっと早くこの監督と出会っていれば、鉄は熱いうちに打ての諺よろしく、フランスの年代別代表監督も務めた現監督が、かつてトルシエシドニー世代を鍛えたように若い選手の才能を伸ばせていたかなと思うのだが。
 
 今季は上記の喜田や中島、そろそろ負傷から回復するであろう仲川を実戦で鍛えつつ、眼前の勝点を拾う形になるだろう。同時に来季に向けておそらくユースのMF和田はトップ昇格するだろうが、それ以外の新卒有望選手の獲得、他クラブから監督の志向に合いそうな選手の獲得に力を入れるしかない。そういう事が出来ないフロントとは承知しているが、出来なければ衰退を招くだけだ。目の前で船が沈みそうなのに何も手を打てないなら、今まで社長の陰に隠れて責任を逃れてきた連中もいよいよ「脚光」を浴びる事になるだろう。それはそれでクラブの中長期的繁栄を考えれば悪く無い事だが。