ある意味料理本

サムライブルーの料理人 ─ サッカー日本代表専属シェフの戦い
 これは代表シェフとしてジーコ時代のドイツW杯予選シンガポール戦(2−1で辛勝した試合。)からアウェー戦に帯同している西芳照氏の手記。前半部はその04年の最初の試合から今までを振り返りつつ、帯同シェフの役割等の紹介、後半部は日記形式でスイスでの直前合宿から最後のパラグアイ戦までの南アW杯の様子が綴られている(しかも全日実際に出した献立付き。)。後書きでは今年のアジアカップの様子も少し紹介。献立が数多く登場する中で、特に焼魚は最近あまり食べれてないので読んでるだけで腹が減って来るから困る(笑)
 南アの対比としてドイツW杯時の様子も描かれているんだが、レギュラーとサブがはっきり分かれて食事を採っていたとか、確かに今の雰囲気とは違った事を窺わせる。ただ著者も述べているように、それと結果がどれほど相関していたかは当事者で無い限り分からないのも事実なんだよな。そういう雰囲気だから結果が出なかったのか、逆に(緒戦でああいった結果だったから)雰囲気もそれに応じてしまったのか―――南アの結果や本書で描かれる食事の風景を鑑みると、前者かという気もするが、ドイツを経験した選手、あるいは著者のように、あの06年の経験があったからこそ2010年があったとも言える訳で。
 そしてこれは全編を通して言える事なんだが、著者の視点が偏見や固定観念に凝り固まって無い故に、その著述がすんなり頭に入って来るのが印象的だった。サッカー同様アウェーの(調理には)厳しい環境でも何とか工夫していつもと変わらぬメニューを出す事を続けて来た人だからこそ、だろうか。そういう人の視点だから、選手や監督の描写も一面の真実を突いているのだろうなと。家族以外でこういう代表のチームスタッフが一番選手の素の顔を知ってるのかもしれない。
 実は著者は福島出身でJヴィレッジ総料理長が本業なのだが、丁度本書の編集が最終段階に入った段階で3月の大震災が発生したという。本人・ご家族とも無事との事ではあったが、Jヴィレッジ再開の目処が立たない今、どうされているのだろうか。つい先日まで女子代表がドイツに居たが、この人は05年コンフェデ、06W杯の2回ドイツを経験しているので、もしかしたら帯同していたのかもしれない。
 本書の印税は全て被災地の南相馬市に寄付されるという。