事実をありのままに見る

道路の権力道路の決着猪瀬直樹

 著者については以前からその名は知っていたけども、特にここ数年東京の副知事として水道事業の海外展開や都営地下鉄東京メトロの経営統合化問題でその名を耳にする頻度が増し、活動それ自体についても事実を淡々と提示してプロジェクトを進めるスタイルが独特なので興味が増していた。と言う事で著者の過去の活動を振り返る意味も込めてこの2冊を読んでみたのだった。“権力”の方は道路公団民営化作業の端緒から民営化委員会による最終答申と委員会の分裂まで、“決着”はそれ以降の民営会社発足までの過去の公団体質との決別作業(談合、ファミリー企業を使った天下りetc)、そして民営化後の展開を少々。

 中身についてまず面白かったのは対立の構図が「民営化に抵抗する公団+国交省vs著者」の様な単純な図式ではなく、まず民営化後も監督官庁として出来る限りコントロールしたい官僚(国交省)とその支配を弱めたい公団の対立、そして公団内部にも技術系と事務系の争いがあり、さらには車と競合する鉄道業界の思惑(最終目的は民営化潰し)まで絡み、それぞれがそれぞれの利害を代弁する識者を民営化委員に送り込んでいた事実。これだけで紛糾するのは目に見えるが、実際途中で委員が次々に辞任し、最終的に出席していたのは著者ともう一人(大宅映子:この人は言わばユーザー代表)だけだったと。
 こういうノンフィクションを読むといつも思う事だが、以前読んだ“戦争広告代理店”といい、世の動きを決める重要な決定というのも、その手続き等はさておいて、突き詰めれば政治家の決断1つで決まるもので、その決定も様々な利害やしがらみが絡まった末に導かれる非常に人間臭い代物なのだなと。本作の場合は小泉政権下だったから政権関係者や与党の人間臭い姿が出て来るが、その中で番外編というか当時野党だった民主党も幾度か登場している。特に笑えたのは管○人が高速無料化論をぶち上げた時の話で、著者に言わせればあれは民主党が民営化論議で主導権を取れなかったあてつけから生まれた類のもので何ら理論的根拠の無いものだと。その対応を著者に指摘されて苦悩する岡■克也という下りも含めなかなか面白かった。著者はこの前首相に対しては基本的に筆が辛いのだが、作中の登場頻度言えば野党最多で(まぁ党首だったから当然と言えば当然だが。)、その行間からは1人の政治家としての興味を窺わせる。

 全編を通して、事実の積み上げによって理論を組み立てる手法(著者は“ファクツ・ファインディング”と表現している)は徹底されていて、これは“政治家”では無いからこそ出来る芸当でもあるかと思うが、ここまでありのままに事実を見据えて動く人物と言うのもなかなかお目にかかれなかったので、今後もこの人の動きを注視しようと思う。まだ未読の著作も読むつもり。