熊谷行(初ラグビー観戦)

 今日は熊谷にて人生初のラグビー観戦。元々ラグビーについてはTVのスポーツニュースや一般紙のスポーツ欄で知る程度で、自分が子供の頃は神戸製鋼が強かった、代表はNZが強い、ぐらいの認識。大学の早明戦も野球の早慶戦高校サッカー高校野球と同じ学生スポーツの風物詩的にスポーツニュースで見ていた程度なのだが、2015年W杯の後、自国開催を控えて試合よりもその歴史的背景や制度、各国リーグ、代表の状況に興味が湧いて、そのサッカーと似ている様で違う、違う様で似ているのが、あたかもパラレルワールドを見る様で面白いなと。2019W杯もスタジアムでは観戦しなかったが、一度横浜で試合後のアイルランドサポと電車で遭遇して、2002年に同じく横浜に同国の人々がやって来たのを思い出したり、TVで見ると、各国サポのチャントあり、ブーイングありの雰囲気が日本で言われるところのラグビーとは大分違うのも感じた(そして親近感)。
 そんな感じでどこか教条主義的な日本のラグビーには距離を置きつつ、W杯会場でもあった熊谷ラグビー場は前々から行ってみたかった。前置き長くなったが、5月でシーズンが終わる中で日程を調べたら今日しか行けなさそうだったので2012年天皇杯レッズvsマリノス以来の熊谷行決定。

 熊谷へは新幹線も通っているが、それではあまりに普通で面白くないので色々マップを眺めていると、近隣の利根川には今も渡しがあるのを知った。ということで今日は朝に家を出て宇都宮線久喜駅から東武に乗り換え、川俣駅からバスで赤岩渡船場まで。

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赤岩渡船場
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利根川

ここは県道扱いなので無料で乗船出来る。利根川を渡った後は河川敷から熊谷駅行きのバス停があり、それに乗って途中下車して徒歩5分程で現地着。ここまでJR、東武、バス、船と複雑なルートだったがどの乗り換えも10分程度で最長でも20分(川俣駅からのバスを降りてから乗船するまでの時間)と実にスムーズだった。
 
 こうして熊谷スポーツ公園内に着くと、まず今日のホームチーム、埼玉ワイルドナイツの施設がお出迎え。

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練習グランド&クラブハウス
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宿泊施設(1階はグッズショップ)

 練習グランドを挟んでこれだけの施設が並んでいる。埼玉県ラグビー協会の施設も兼ねている様だが、他に医療施設もある。サッカーだと宿泊施設まで備えた場所はJクラブ単独では聞いたこと無いし、福島のJヴィレッジや堺のJグリーン等クラブの枠を越えた施設ぐらいかな。こうした取り組みを含め、このワイルドナイツというチームはサッカー界で言うところのかつてのヴェルディ読売クラブ)と鹿島を合わせた様な存在に見える。早くからプロクラブを志向してハード、ソフトの整備を進めてリーグ内の強豪に上り詰めた点、地理的には都心では無く関東近郊を本拠とする点に於いて。チーム名に熊谷ではなく埼玉を冠したのはその両面性のバランスを取った折衷の様にも思えるが、中途半端に埼玉を名乗るなら「熊谷」を冠して鹿島の様にブランド化すれば良かったのに、とも思う。練習ピッチ脇には熊谷市内の小学校の子供達が描いた幟が掲出されていて、公園内や市内幹線道路沿いにはチームのバナーが飾られていたり、自治体の支援もあるようだし。
 
 そんなこんなでスタジアムに着いたのは開始1時間半前の13時頃だったが、丁度ゲートに着いた時に入場開始。普段Jだと(最近は直前に着くことが多いが)、開門は2時間~2時間半前というのが染みついてたので意外だった。

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スタジアム全景

 スタジアムの構造としては1つだけスタンドが独立した構造で三ツ沢に似ている。というか背もたれ、カップホルダー付の座席等、今三ツ沢を建てたらこうなるんだろうなというデザインというか。ただ独立スタンドはバクスタなのが三ツ沢とは逆。

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アウェイ側インゴール裏

 その他目を引いたのはアウェイ側インゴール裏(この様な表現が適切かはさておき)に↑のテラス/ラウンジ席があったこと。これはゴール裏応援文化のあるサッカーだと出てこない発想だよなぁ。海外のラグビースタジアムを見ても、ナショナルスタジアムは別として、クラブだとスタンドはメイン、バックのみ(要は福岡のベススタの様な構造)という所もある。今日の観客の入りを見ても、バクスタの中央とメインのホーム寄りに多かったが、両インゴール裏はあまり人がいなかった。メイン、バックが空いてるのにインゴール裏にわざわざ席を取る動機がなかなか見出しにくいという背景はあるのだろうし、サッカーで言うところのゴール裏エリアはそうした収益面のメリットもあるのかなと思った。

 再入場も可能なのでメインスタンド方面の店舗も覗きつつ昼食を調達し(近隣の群馬県太田市弁当屋で唐揚げ丼が美味かった)、試合開始。再入場方法など不明点はスタンドやコンコースにいるボランティア?スタッフの人に聞くとすぐに案内してくれた。

 ようやく観戦記になるが、正直ラグビーは細かいルールまで把握してないので、あまり語れることは無いのだが、試合中もスタジアムDJや解説者の会話が場内に流れるのは驚いた。特にファールがあった時にその理由を伝えてくれるので助かった。ラグビーのファールは、パッと見て分かりにくいものが多く、主審の笛が鳴った後に「今の反則の理由は何か」と考えることが多いので。一方でこういった場内DJが流れるのを含めての観戦スタイルなのだろうし、今のコロナ禍が終息しても場内の雰囲気はさほど変わらないのかなとも感じた。サッカーの場合、やはり試合中のチャントが響いてこそと思うし、今はそれとは違う別世界と自分では思っているが、ラグビーはその点あまり違いは無いのかなと。
 試合そのものはワイルドナイツが前半シャイニングアークスに0-10でリードされるも、どの球技でも強いチームは試合時間トータルで力の配分を計算して結果を出すよなと思っていたのだが、やはり後半開始から選手交代含めてギアを上げて一気に逆転。ただSアークスも特に15番のフォラウが個人技でチャンスメイクして追いすがったので接戦になった。ラグビーに関してワールドクラスとそれ以外の違いがまだよく分かっていない面がある(サッカーならテクニック、フィジカル、メンタル等から選手のレベルをある程度推し量れる)のだが、このフォラウという選手は長身かつフィジカル、スピードを備え「違い」を作れる選手なんだなというのが一目瞭然だった。調べたら豪州で色々あってほぼ代表含むキャリアは断たれた結果、今日本でプレーしている選手とのことだったが。
 その他観ていて面白かったのは、ワイドに展開して攻める際に、両チーム共に斜めに走る動きを意識していた点。守る側からすれば当然ながら正面より斜めに来られる方が捕まえにくいし、サッカーでもマークを外したりDF裏に抜ける動きでこうした斜めの動きが重視されたりするので、そうした共通点を感じるのも楽しかった。
 接戦と書いたが、終盤にSアークスが同点に追い付くも、ワイルドナイツがその直後に突き放すトライを取ったのはさすがだった。球技を問わず強いチームは取りたい時に点を取れるものだなと。31-24でワイルドナイツの勝利。

 SNSを見ていると試合の雰囲気作りという点においてホームチーム寄りの運営or(日本で信じられているラグビーらしさという意味での)両チーム公平に、という議論があるようだが、まだ日本ではクラブチームにそこまで帰属意識だったり入れ込む人が多くはなく、ラグビーそのものが好きという人に支えられている故に起こっている議論という気もしている。例えばワイルドナイツもこの熊谷で10年20年活動していけばいずれ「物心付いたときからこのチームを観てました」という世代が現れて、スタンドの空気も変わるかもしれない。
 ただ今日のスタジアムを見て思ったのは、来てる人は総じて善男善女だなと。皆恐らく一定の教育水準で良識を備えた好人物なのだろうけど、社会は必ずしもそうでは無い。Jや代表戦のゴール裏にいけば、サッカー好きという以外に全く価値観や会話が合わなさそうな連中も(一部ではあるが)いたりするが、それを含めて試合の90分だけはそのチームを応援する空気が作られて、そして試合後は皆それぞれのコミュニティに戻っていく。そのダイナミズムに親和性を覚えてしまう自分としては物足りなさを感じたが、それはそれでラグビーの独自性でもあるのだろう。

 試合後はすぐにスタジアムを出て熊谷駅行きのシャトルバスに乗り、帰りは新幹線で帰宅。