情報戦の本質

ドキュメント 戦争広告代理店高木徹
【概略】
 旧ユーゴ崩壊に伴って起きたボスニア紛争は本来複雑に絡み合う民族間の対立こそ本質であり、何が悪で何が善か判断するにはあまりにも複雑な状況だった。にも関わらず国際世論がボスニア(のムスリム人)=善、セルビア人=悪との図式を受け入れ、ユーゴ(セルビア)を一方的に断罪した背景には、ボスニア政府と契約したPR会社と呼ばれるアメリカのプロの仕事があった―――

 これは元々NHKスペシャルで放送された番組をプロデューサーが書籍化したものだが、それこそ「プロフェッショナル仕事の流儀」とかで紹介するべきものと思う。スポーツのプロフェッショナルが時に勝利を追及し過ぎる姿に反感を食らうように(そしてその反動として高校生とかアマチュアの純粋さに注目が集まるように。)本当に紹介されたらこうした仕事は強い違和感を覚えられるかもしれないが、それも現実にそういう世界があり、目に見えない場所でそういう力が働いている事実を知る事の出来る意義を越えるものではない。


 本書で登場するPR会社の仕事は、大概にして“陰謀”の一言で括られがちな『目に見えない力』の本質を突いたもの。それは合法的に行われるもので、本書で最終的にユーゴが国連から追放されるに至ったのも、何も魔法を使った訳では無く、最も効果的に発揮されるよう計算された一つ一つの細かな仕事が積み重なった結果に過ぎない。(話は逸れるが、これが92年に起こった為に、ユーゴ代表はEUROから追放され、そしてストイコビッチが日本に来る幾分かの理由になったかもしれないと考えると急に話が現実感を増すな。)そしてそうした仕事を具体的に見ていくと、どんな政治家も官僚もVIPも1人の人間であり、最終的にはその人間の下した決断によって事態は動くと言う当たり前の事実。


 この例ではユーゴ側があまりにPRというものに対して無知だった為にボスニアの一方的な勝利に終わったけども、現実は様々な分野でPR会社同士が目に見えない所で激しい戦いを繰り広げているのだろう。国際政治の分野だけでなく、例えば企業間の競争、スポーツの招致活動、あと多分国際的なNPOなんかもこういう手法は熟知してるだろうな。例えばシー・シェ○ードもやってる事はどこかの原理主義者や海賊と変わり無いのに表立った批判が盛り上がらないのは、その点の戦略が巧いからなのだろう。