一言では語り尽くせぬ監督の本

モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」 明かされなかったロッカールームの証言/ディエゴ・トーレス

 本作は有名なレアル番記者である筆者が、選手やクラブ関係者からの匿名証言を元にモウリーニョ下の3シーズンを描いたもの。基本的に選手(クラブ関係者)視点であるが故にモウリーニョの独裁性、異常性が強調されており、人物の評価という意味では公平性を欠くきらいはあるのだが、読後はむしろこの監督に対する興味というか畏怖が増した。その独裁性を強調されればされるほど、そんな状況下でもリーガを勝点、得点数の新記録で制覇させた“力”とは一体何かと。C・ロナウドを始めとする選手のお陰というのは容易いが、良い選手を集めただけで勝てないチームは世に数多くある訳で。

 思うにチェルシーインテル時代以上に(性格的な意味で)攻撃性が強まった一因は、レアルというクラブが持つ格ではないかとも思う。前2クラブは歴史こそあるがそれぞれマンUミランユベントスの陰に隠れた存在であるが故に、存分に“王者に噛みつく挑戦者”の役を演じれたと思うが、レアルは歴史的にそういう役割はあり得ない。例えその時点での現実がそうであっても“絶対王者バルサに噛みつく挑戦者レアル”なんて構図はクラブを取り巻く関係者全てが認めないのではないかと思う。そのような孤立した状況であるが故に牙を収めるどころか益々研ぎ澄ませて攻撃(口撃)を強めていったのではないかなと。

 またそういった口撃は仮想敵に対する歪んだ愛情というかコンプレックスの発露という見方も出来る。作中、実はファーガソン後のマンU監督の座を狙っていてモイーズ決定にショックを受けていたとか、チェルシー(第1次)退団後に監督を探していたバルサとコンタクトを取っていたとかの下りがあるのだが、レアル時代の異常な攻撃性は上記の所属クラブと自分のキャラのギャップの他に、自分の代わりに監督に選ばれたグァルディオラに対する嫉妬もあったんだろうなと思う。モイーズに対しても条件は同等だが、今のマンUは当時のバルサと比較に成らないぐらい凋落し、ピッチ上では既に圧倒しているだけに“燃える”要素は無く、むしろ哀れみすら感じているかもしれない。

 このように一言では語り尽くせないこの監督の一面を知る意味で面白い本だった。その他興味深いところではジョルジュ・メンデスというモウリーニョ、C・ロナウドの代理人がレアルで巨大な存在感を持っていた点。この代理人は前記2人の他ぺぺ、ディ・マリア、コエントランといった契約下の選手を次々にR・マドリーに送り込み、更には代理人で唯一練習場に自由に出入り出来る権利まで持っていた。ついさっきレアルの“格”について書いたばかりではあるが、そのようなクラブでさえ、一代理人にここまで振り回されるのを見ると、代理人とか契約(交渉)というのは雑誌や新聞で報じられる以上に複雑で込み入った世界なのだろう。