暗殺国家ロシア/福田ますみ
本作は先月大阪に行く途中、新幹線の暇潰しを探そうと品川駅構内の本屋で物色していたらたまたま目に止まったもので、作品、著者共に全くの初見。2010年に単行本として刊行された作品の文庫版。内容としては現在のプーチン/メドヴェージェフ体制下のロシアでは言論が制約を受け、ほぼ全ての新聞、テレビ、ラジオが御用メディアと化す中で、中立を維持する数少ないメディアに対しては記者への安全が保障されず、幾人もの殉職者を出している様を描く。ある独立系新聞を中心にした構成なのだが、チェチェン紛争報道や同じカフカス地方での学校占拠事件報道に関連して記者や関係者が次々と襲撃され、殺害されていく描写があまりに生々しい。
作中に登場するロシア人ジャーナリストの言によればプーチンが目指しているのは完全な西欧化でもソ連への回帰でもなく、その折衷というか「制御可能な」自由であり体制の実現らしい。それはソ連崩壊によって自由を手に入れた一方で、急激な変化に国や人々の意識が追い付かず、ある種のカオスに陥った反省という。例えばロシアには資本主義への移行のどさくさに紛れて富を蓄えた新興財閥(オリガルヒ)が存在するが、メディアを傘下に収め、反政府的な報道も恐れなかった彼らをプーチンは容赦なく弾圧し、強制的に支配下に置いた。(チェルシーのアブラモビッチはこの時従った1人。)このような実態を見ると、この国は帝政〜共産党と歴史上一度も民主主義を経験してないのを改めて思い出す。
プーチン/メドヴェージェフ体制と書いたが、プーチンがいかにもツァーリ然とした言動が多い一方で、単行本が刊行された当時の大統領メドヴェージェフは上記の独立系新聞の単独インタビューに応じたり、その他色々な情報を見るに、ややリベラルな人物らしい。この点は中国で言う胡錦濤に対する温家宝みたいに、あくまでその国において相対的に、というレベルだけども。ただ先日数万規模の反プーチン集会が開かれたり、刊行当時とは少し変わりつつあるようにも思う。
話は変わるが、本作の重要な舞台であるチェチェンを始めとするカフカス地方は、黒海とカスピ海の間に幾つかのロシア内の自治共和国やグルジア、アゼルバイジャンなど旧ソ連の国々が混在しているのだが、作中に掲載された地図にチェチェンの東隣にタゲスタン共和国とあるのを見て、そう言えばあのエトーが移籍したので有名なアンジ・マハチカラはここが本拠だったのを思い出した。表面上チェチェン紛争は収まったとは言え、未だテロが散発している中でよく試合が出来るなと思って色々調べてみると、練習場はモスクワを拠点にし、リーグ戦の度にマハチカラに移動しているようだ。しかし欧州カップではUEFAから本拠地使用も禁じられている。この地域にはチェチェンのテレク・グロズヌイ、北オセチア共和国のアラニア・ウラジカフカスといったロシアプレミアに属するクラブがあるが、何を言いたいかと言うと本田も当然そこに遠征しているという事。レベルだけ見ればロシアリーグはオランダ、ベルギー辺りより競争力があるし、早急に脱出しなければならないほどではないと思ってるのだが、この面から考えればミランでもエバートンでも何処でも良いから今夏中に何が何でも移籍して欲しい。